弱い生理的な力で動かす矯正歯科治療とは

セルフライゲーションブラケット_セラミック

弱い生理的な矯正力による治療

従来、矯正歯科治療で使われてきた歯を動かす矯正力は強い傾向にありました。例えば硬いステンレスでループというバネを組み込んで前歯を後退させるときや、歯を動かすときに使用するパワーチェーンと呼ばれるゴムも比較的強いものを使うなど全体的に強い力が用いられていました。確かに強い力は時に有用であることもあるのですが、矯正治療全体を通してハイパワーで歯を動かすようなことは私のクリニックでは行いません。

従来の矯正治療ようなハイパワーの矯正治療ではなく弱い生理的な力による矯正治療では、歯根吸収が起きにくい、動きがスムーズ、歯槽骨も歯の移動とともについてくる、唇や舌などの歯列を囲む筋肉も歯を動かす矯正力として利用でき歯列の内側と外側の力のバランスの取れた位置に歯が移動するので術後の安定性が高まる、副次的な好ましくない歯の移動を制御しやすいなどのメリットが生まれます。このような弱い生理的な矯正力で動かすシステムのことをローフォース・ローフリクションシステムと呼びます。

弱い矯正力による治療の歴史

セルフライゲーションブラケット

現在はこのような弱い生理的な力で動かせるセルフライゲーション・ブラケットが世界中各社から様々なものが販売されています。歴史的にはこのような矯正システムを世界に浸透させたのはアメリカのワシントンで開業されているDr. Dwight Damon(以下デイモン先生)です。デイモン先生の長年の臨床実績から、矯正装置とワイヤーを縛り付けないでセルフライゲーションブラケットと形状記憶合金などの弱い力が持続するハイテクワイヤーで治療を進めると

  1. 痛みが少なく
  2. 歯の動きが速く
  3. 口や咀嚼の筋肉の力を最大限に利用できる
  4. 歯槽骨がいっしょに追従しやすい

といったことが観察されたためデイモン先生はこれらのことを世界に伝えようとしました。 上記のような現象が起きる理由として、

  1. 伝統的な矯正治療では強い力で治療して歯根周囲の組織が壊死するため矯正治療が遅くなっていたが、セルフライゲーションブラケットを使用してワイヤーを装置にきつく縛り付けないようにすると摩擦が弱まり弱い適切な矯正力を歯根や歯槽骨に伝えやすくなる。
  2. 従来の矯正治療では弱いと考えられていたワイヤーやゴムでもスムーズな移動が起こり、さらには咀嚼筋や舌など口腔顔面周囲の筋肉の力も矯正力として利用できるため、口の中の抵抗が最も弱いところに自然に歯が移動して安定性が高まる 
  3. 歯根周囲の血管を押しつぶさない弱い矯正力を利用するので壊死が起きず歯の移動とともに歯槽骨も追従しやすい
 
からだと考えました。

後戻りしにくい位置に歯列を整える

歯列は外側を唇や頬で囲まれ、内側からは舌で押されて位置のバランスをとっています。なので頬や舌の筋の力を最大限利用して歯列を整えると自然と歯列は力のバランスが取れた安定した位置に並ぶ傾向があります。内側の舌の力と外側の唇・頬の力のバランスがとれた位置に歯列が動くことで後戻りするリスクを軽減できるということです。

舌と唇の筋肉が押す力でも後戻りするため、舌位の異常や口呼吸などがある場合には治療前や治療中にトレーニングさせて正常になるよう指導します。

このように舌や唇などの顔面や口腔周囲の筋肉は後戻りの要因でもあり、天然のリテーナーでもあります。

関連記事

  1. 妊娠中の矯正治療

    授乳中・妊娠中の矯正歯科治療について

  2. 下顎後退両顎手術

    両顎手術による「顎なし」の改善:小さすぎる下顎の問題解決方法…

  3. 舌根沈下といびき

    睡眠時無呼吸症候群に対して矯正歯科医ができること

  4. 顎間ゴム・クラスⅢ

    矯正歯科で使われる顎間ゴムとかけ方

  5. 口ゴボ矯正治療症例3 側貌

    口ゴボを改善:歯茎からの後退を目指す矯正治療

  6. 術前のシュミレーション_sig

    効果とリスクを知ろう:外科矯正について

PAGE TOP